あああ!
 またしても鷹士さんとの会話を思い出している。
 最近の私は、なにを見ても聞いても鷹士さんを連想してしまう。

「はあ……」

 息を吐き出すと、心なし熱がこもっている気がする。
 うん、これも気のせい。

「よし、頑張る!」

 気を引き締め直す。

 ……『修復よりもまずは調査だ』と師事した人達は皆が皆、口を揃える。
 これは『なにを置いても、依頼された作品の状態をまず調査』を意味する。

 どんな時代に作られて、どんな素材にどんな絵の具で描かれているのか。
 この掛け軸はどんな病気なのか。
 素材の劣化なのか、絵の具に原因があるのか。
 もしくは虫食いやカビに冒されているのかなどなど。

「原因が特定できたら、次はどんな処置をすればいいのかを考える」

 日本は高温多湿だから、どうしても劣化が進みやすい。
 それを食い止めるだけにするのか。
 もしくは変な言い方だけど、作品の時間を巻き戻すのか。

 見極めて修復の方向を定めたら報告書を作成。
 依頼者に『こんな処置を考えています』と提案して、了承を得てから作業に取り掛かる。

 今回、私が手がける掛け軸は、私の勤務先である美術館の収蔵品。
 原因と処方についてのレポートは、すでに上に提出済だ。