修復を必要としているのは絵画だけではない。

 染織品だと、全体の文様が想像できる場合は、形だけ復元することもある。
 文様自体を復元したい場合は、染料や当時の素材などを探すことから始めたり。

「教科書で復元の過程を読んで、ときめいたっけ」

 ……たまに仏像や彫刻などの木製品とか。
 これはお仏師さんとか、彫像専門の方が請け負うことが多い。

 花瓶やお皿などはあえて復元せず金継ぎすることもある。
 文化的価値は下がるかもしれないけれど、風流だと思う。

「先人は素晴らしい方法を編み出してくれたなぁ」

 和紙だけではなく洋紙、文書なども修復の対象である。
 書物のページ同士が貼りついてしまっているのを破かずに読めるようにしたり、虫食いやカビを食い止めるのに主眼を置いたり。

 私達は『保存修復』を実践しながら、後世によりよい形で遺していくことを目標にしている。
 内容を読み解くのは歴史学者さんや、別の専門の方のお仕事だ。

 ……たまに『某氏の日記が×億円で落札』『某某文書、五十年の時を経て公開へ』などが世間を賑わせる。
 ニュースを聞くたび保存状態が気になる。

 一緒に食事しているときにこぼしたら、鷹士さんに『立派な職業病だね』と揶揄われてしまった。