……頭を切り替えるため、『然を使う熟語』を探してみることにする。
 現在、【然えんと欲す】という語で終わる、五言律詩の掛け軸を修復中なのだ。

「今の私の状態はなんだろう?」

 この、もやもやする毎日について、名前がつけば今の状態がわかるかも。

「画然は、『区別がはっきりしているさま』……これは、鷹士さんと悠真さんだ」

 二人は白と黒、水と油ほどに違う気がする。
 タイプが違うから、お互いを補い合う間柄になれるのかもしれない。

 ……私にとって、二人は北風と太陽だ。
 どちらがどっちかは。
 慌てて思考を切り替える。
 今、太陽が誰なのかを考えたくない。

「ぼ、茫然自失は『驚きや呆れで我を失ってしまうこと』これは近いかも」

 けれど微妙に違う。もう一声。

「空然は『なにも考えずにぼんやりしていること』」

 かなり近い。
 鷹士さんのことを想っているとき、同僚や上司に指摘されるもの。
 ……まで考えて。
 はあああ……と、またも大きなため息が出てしまった。

喟然(きぜん)とは、ため息をつく様子や嘆息する様子を表す」

 ぴったりだ。
 ……私はここのところ、ため息を頻発している。
 油断していると同僚がいるときも何度もしているから、心配されている。
 原因はわかっている。

「鷹士さんだ」