……以来、私達はお互いの趣味分野もとい仕事のことには口を出さない。
 互いの仕事ジャンルのドキュメンタリーを見てはいる。
 私が美術系の番組に真剣になっていると、彼はいつのまにか眠っている。

 鷹士さんが熟睡モードに入ってから、そーっと覗きこむ。
 普段は凛々しい顔が、少しだけあどけなくなるのにキュンとしてしまう。

 写メを撮って永久保存版にしたい。
 携帯を手にしかけて、ハッと気がつく。

『盗撮、だめ。絶対』

 頭をぷるぷると横に振って煩悩を追い出した。 

 ……最近は、彼が居眠りするのを狙って、わざと録りだめしておいた美術番組を見たりする。

 寝息が聞こえてくるとイケナイと思いつつ、覗き込んでしまう。
 長いまつげや、すっと通った鼻梁に『美人』という単語を思い浮かべる日々。
 秀麗でありつつ、男らしい。
 鷹士さんをモデルにした彫像や絵画がないのが不思議なほど。

  *

 はああ、とため息を吐き出す。
 一緒に暮らすようになってから鷹士さんは色々な『彼』を見せてくれる。
 そのたびに、私は『鷹士さんのこんな表情を見れるのは私だけ』と思い込んでしまいたくなる。

「勘違いしちゃだめ、私」

 これは鷹士さんからの、二人の幼馴染へ親切だ。
 政治家を目指しているからクリーンな環境を作らなければならない悠真さんと、悠真さんに失恋して行くあてのない私への。

「鷹士さんと、このままずっと一緒に暮らしたい……」

 口に出した願いに、ハッと気づく。
 
「『失恋リハビリ完了』と見做されて、同居解消宣言されたらどうしよう」
 
 あるいは『恋人ができた』と告げられたら?

 考えだけで、心臓が苦しくなってくる。
 きっと心身ともにガタガタになる。

「はー……」

 嘆息ともつかない呼吸音が出てしまう。