別の日。
 私が美術系の番組を見ていると、お返しなのか『プロから見てどう?』と質問返しされた。
 もちろん、私の仕事にも守秘義務はある。
 けれど『よくぞ聞いてくれました!』とばかりに一生懸命説明してしまった。

 すると、彼はなぜか曖昧な微笑みを浮かべた。
 ……そういえば鷹士さん。
 私や悠真さんが見てきた美術展について興奮して喋っていると、いつもこんな表情を浮かべていた。
 ん?
 あの表情、ここ五年以内に見たことがある?
 あ。

『イタリア来てくれたとき、美術館付き合ってくれましたよね』

 気になって質問してみた。
 私が訊きたいことを察したのだろう、鷹士さんは気まずげに目をそらしてしまう。

『……多分。猛烈にダルかったです、よね』

 興味のないことに付き合わされるほど苦痛なことはないだろう。
 私は訪ねてきてくれた喜びと、案内するんだという使命感に燃えていて鷹士さんの気持ちに気づかなかった。

『……ごめんなさい』

 謝ると、彼は視線を元に戻して、必死に弁解してくれた。

『退屈ではなかったよ、キラキラ輝いている日菜乃ちゃんの顔をみて満足してたから!』

 意味がわかった瞬間、多分私の顔は真っ赤だったはず。

『……ソーデスカ』

 AIみたいな反応になってしまった。
 けれど、心の中では半狂乱。

 鷹士さんー! 
 普段は寡黙男子なのに、どうしてここぞというところで殺人サーブを繰り出してくるの?
 私、心臓に直撃受けてしまったではないですか!