……悠真さんに振られる以前。
『失恋を癒すのは日にち薬しかない』と聞いたことはあった。
 けれど実際は、そんなことを唱える余裕すらなく。
 最初の一週間は、ただ痛みを抱えてうずくまるしかなかった。

 三十秒に一度は携帯を見ていたような気がする。
 ……悠真さんから今まで一度も連絡があったことないのに、未練がましいったらない。

 誰かと喋っていたり、仕事をしているときはいい。
 困ったのはお風呂に入っているときとか、ベッドに入ったとき。
 寂しさや恨み怒り悲しみなどが、どっと襲ってくる。
 
 それらを消化するために、泣くしかなかった。
 ……でも全部、鷹士さんにバレている気がしてならない。
 泣いた日の翌日、彼が輪をかけて優しいのだ。

 腫れぼったい目をこすりながら起きだすと、私の大好きなメニューで朝食が用意されている。

 夜、帰ってくるときには花束とバーチ・ディ・ダーマをプレゼントしてくれる。
『White eye』のコーヒーを口にしながらのおしゃべり。

 二人揃って休みの前となれば、お酒とおつまみの夜。

「嬉しいんだけど、美味しいんだけど……!」
 
 毎日食べたら、洋服が全部着れなくなるのは確実で。
 そこにある危機を感じとった私は、少しずつ泣かなくなった。