しばし、二人の間に沈黙が横たわる。

『……そんなことは。だが、日菜が僕から離れるなんて』

 ようやく返事してきた。
 しかし、注意しなければ聞こえないほど、彼の声は小さい。

「いい加減、目を覚ませ。彼女はお前の所有物じゃない」

 頼む、諦めてくれという鷹士の願いも虚しく。
 電話の向こうで悠真が薄く笑った気配がした。

『……いや。日菜は僕のものだ』

 瞬間、血が沸騰するかと思った。

「悠真……!」

 親友を殺してやりたいほど憎い。

「返してもらう、彼女は宗方の人間(モノ)だから」

 彼は、はっきりとそう言った。

「おい!」

 鷹士が抗議する前に電話は切られた。
 ツー、ツー。
 鷹士はいいしれぬ不安を感じた。
 
「歪んでいる」

 この一ヶ月、日菜乃の言葉からしばしば疑問を抱いてはいた。
 悠真の、日菜乃への接し方はおかしい。
 恋慕というよりは、所有物への支配のようだ。

「それに」

 惚れている欲目かもしれないが、鷹士といるときの日菜乃は明らかにリラックスしてくれている。
 二人で暮らしてようになってから改めて考えると、悠真といるときの彼女は萎縮していたようだった。
 悠真の前の日菜乃と、自分と二人きりの彼女は別人ぐらいに違う。

「日菜乃ちゃん……」

 彼は無言でポケットの中の小箱を握りしめる。