「行くあてがなくて途方に暮れていた彼女に、同居を提案した」

　怒りと嫉妬を抑えていたので、鷹士は己の声が温度をなくしているのを自覚する。

『鷹士に、日菜はあげないよ』

　耳元で聞こえた悠真の声は、自分を嘲笑していた。
　それはいい。
　だが、彼女はモノじゃない。
　鷹士はギリ、と奥歯を噛み締める。

「ふざけるな。あんなに慕ってくれていた彼女を、『結婚するから』とあっさりと切り捨てたのはお前だろう」

　親友は、華やかな見た目と人懐こさで、男女問わず人を惹きつける。

　悠真は中学からガールフレンドは途絶えたことはなかったし、高校から『人脈作りの一環』として読者モデルを始めたので、芸能界に属しているような女性とも付き合っていた。　

　いずれも清潔な終わり方で騒がれたことはなかったから、鷹士は彼の交友関係についてなにも文句を言ったことはない。

　だが、日菜乃のことであれば別だ。

『捨てたつもりはない！　どうして……、こんなに早く……。一ヶ月経っても、居るものとばかり！』

　一変して、今度は動揺している悠真に、鷹士は苛立ちを隠せない。

「一ヶ月、彼女がお前を思って泣き暮らす姿を見て、優越感にでも浸るつもりだったのか？」

　鷹士の言葉に、親友は再び息を呑んだ。