在学中のある日、日菜乃が痴漢に遭ったと悠真から聞かされる。

 瞬間、犯人へ激しい憤りを感じた。
 どこに隠れても探しだし、二度としないように痛めつけてやりたい。
 なによりも、すぐに日菜乃のもとへ駆けつけて、慰めてあげたかった。

 ……それがきっかけで『女性が一人でも、安全に道を歩けるような日本を目指したい』と警察を志すようになる。

 悠真は政治家を目指していた。
 時折『二人で住みよい日本をデザインしよう』と話し合う。
 在学中に国家公務員試験を受け、卒業後は迷わず警察庁に入庁した。

 順調にキャリアを重ねていく。
 恋人もいたが、激務のため自然消滅が多かった。
 見合いも持ち込まれたが、その気になれない。

 たまに日菜乃が上京してくることもあれば、帰省したときに宗方家で見かけることもあった。
 都度、慕情を呼び起こされる。

 悠真を追って東京へ出てくるはずの日菜乃は、東京の専門学校の受験を失敗し、地元の専門学校に通うことになった。
 彼女が専門学校を卒業する頃、鷹士はふたたび淡い期待を抱く。 
 
 日菜乃の専攻は美術修復だ。
 東京は美術館や大学も多い。
 産学共同で修復技術の研究も進んでいる。
 修復技術を活かすために、今度こそ東京に就職するだろうと考えていた。

『今度会えたら、告白しよう』とも。

 しかし、本人の希望もあったのだろうが、悠真の父の意思により日菜乃は海外へ留学させられた。

 ……鷹士は二人が付き合っていて、悠真の父親に反対されているのだと信じこんだ。
 悠真がそれとなく二人に肉体関係があるように匂わせていたからだ。

 そして三年の月日が経ち、日菜乃が帰国してきた。
 観念したのか、悠真の父親は悠真と日菜乃の同居を許した。——