『……かわいい』

 鷹士が同意すると、悠真がはしゃいだ。

『ねー!』

 ふわふわでミルクの匂いがする赤ん坊に、二人とも夢中になった。
 鷹士は彼女に会いたさに、父がいなくても宗方家に通うようになる。

 悠真の傲慢だった性格は、日菜乃により随分矯正された。
 日菜乃は、悠真に意地悪されると鷹士に泣きつく。
 悠真ではなく鷹士に甘えられるのが、相当悔しかったのだろう。

 強圧的な態度が減ると、本当の彼がよく見えるようになってきた。

 ……子供の頃の悠真は不器用で要領が悪く、叱られるときしか親に口をきいてもらえなかった。

 いつだろうか。
 厳しい父親に気にいられようと努力している悠真に気づき、彼の努力を評価するようになった。
 悠真が辛い思いをしないようにと、サポートすることも増えた。

 そのうち、周囲から『人たらし』と言われるようになった悠真が、鷹士にだけ傲岸不遜な態度を見せる。
 自分に対する甘えなのだと理解していた。

 悠真は鷹士が美術を苦手と知っていたから、マウントもとってくる。
 日菜乃が悠真の父に可愛がられ、美術に高い関心を持っていたのも一因だろう。
 
 鷹士は、二人が楽しそうに美術について話し合っているのを気にしていなかった。
 己より劣っている悠真に、弟のような気持ちを抱いていたのかもしれない。