ある日、父と宗方家へ遊びに行くと、悠真が手招きをしてくる。

 鷹士は気が乗らなかったが、幼な心にゲストはホストに従わなければならないことも理解していた。
 悠真と一緒に使用人夫婦が住んでいるという離れに、いやいや潜り込む。

 彼が見せてくれたのは、赤ん坊だった。

『ひなっていうんだ、ふわふわでかわいいよね』

 日菜乃の母が見守る中、柔らかくてすべすべな頬に触らせてもらった。
 指をつつくと、小さな手でしっかりと鷹士の指を握ってくる。

 ……本当なら、鷹士には日菜乃よりひとつ上の弟がいるはずだった。
 家族みんなで待ち望んでいた赤ん坊は、生まれて一週間で天に召されてしまった。
 あまりに両親が悲しんでいたものだから、『おとうとかいもうと、またほしい』と言えなくなってしまう。

 兄弟で幼稚園に通ってくる友達がうらやましかった。
 喧嘩を仕掛けては泣かして、両親に頭を下げさせていた。
 そんなときに日菜乃に出会った。

 この子を大事にしてあげたい。
 守ってあげたい。
 五歳だったが、鷹士はそう思えた。

 一方の悠真も、一人っ子だった。
 彼の母は、愛人を抱えている夫を嫌っており、跡取りを産んだあと寝室に入れさせなかった。