「メジロはフクロウとは違って、夜に眠る鳥らしい」
「そうなんですね」

 世の中、知らないことがたくさんある。

「……でも。なんでメジロなんでしょう」

 他にも夜に眠る鳥はたくさんいそうなのに。
 鷹士さんが、ニコと笑う。

 あ。
 この表情は教えてくれないやつ。

 子供の頃、勉強を教えてもらったとき、しばしばこの顔をされたっけ。
『調べてごらん』と言うことなのだろう。

「このコーヒーはね。ミルクチョコレートや塩キャラメルと合わせると、さらに美味しいらしい」

 そう言って、バーチ・ディ・ダーマを一つ摘むと、私の口に差し出してきた。
 ちゅ。
 そんな感じで唇に触れる。
 私が口を開く前に、鷹士さんはパクリと自分で食べてしまった。

 あっけに取られている私に「貴婦人のキス、ご馳走様」と言い、席を立ってしまった。

「あ」

 意味がわかって、私は顔が熱くなる。

 Baci di dama。
 イタリア語で「貴婦人のキス」という意味だ。
 なぜなら、二つのクッキーの形が「ちゅ」と、キスするときの唇の形に似ているから……!

「い、今のは間接キス……?」

 じゃないよね、鷹士さん!

 まただ。
 私はいったい、何回勘違いすればいいのだろう。

「……それにしても」

 いくら私が経験値が低いとはいえ。
 世の男性は実はみんな、イタリア男性みたいにアモーレなんだろうか。
 
「それとも、私の幼馴染の彼ら二人が特別なの……?」

 茹で蛸みたいになっていたであろう私は、バクバクと食べまくった。
 バーチ・ディ・ダーマは、ミルクチョコレート味と塩キャラメル味がした……。