好きだと思ったのは、私の勘違いかも。
 ずきん。
 ……この言葉は、私の心を切り裂くキラーワードになってしまった。

「お! もしかして煮込みハンバーグ?」

 鷹士さんがくしゃりと顔を崩した。
 よかった、私の思い違いだったみたい。
 ほっとしたら、彼の少し幼くなった表情に、体の奥がキュンとなる。

「早苗おばさんに、一回ご馳走になったよね」

 鷹士さんは私のお母さんは『早苗おばさん』、お父さんのことは『藤崎のおじさん』と呼ぶ。

 覚えていてくれた!

「はい、お母……、母にレシピを聞いて。お好きだといいんですけれど」 
「すごい美味かった。ホワイトソースとデミグラスソースの絡みが絶妙だった」

 鷹士さんが目をキラキラさせている。
 しまった、期待値を上げすぎたかもしれない。

「……ホワイトソース、冷蔵庫にあったのをお借りしました」

 多分、鷹士さんが朝食に使ったであろうパウチの残りを拝借した。
 返さなくていいよ、と軽く言ってくれて鷹士さんは着席する。

「俺。ホワイトソースを作ろうとすると、小麦粉をダマにする天才なんだけど」

 言い方に思わず、笑ってしまった。
 鷹士さんも楽しそう。

「最近は便利だよね」
「確かに」

 天才部分については、あえて追求せずに私も着席する。