警視正は彼女の心を逮捕する

 電話を掛けながら、時計を見た。
 十九時を少し回っている。

 この時間、宗方家は夕飯が終盤のはず。
 今日は、お母さんが給仕当番だろうか。
 だったら、電話には出られない。

 ……あとでお母さんにメールをしておけばいい。
 時間がかかるかもしれないし、材料も家にある物では足りないかもしれない。
 返事がきてから作ったほうが、効率がいいに決まっている。

 でも、どうしても今日中に知りたかった。

『はい』
 幸いなことに、数コールで母が出てくれた。

 よかった!

「お母さん、あのね……」

 *

「ただいま」
「おかえりなさい!」

 私はパタパタと玄関に迎えにいく。
 二人で互いの姿に目を見張ってしまった。

 私は職場用の服の上にエプロン姿。
 鷹士さんは……、有名なパティスリーのショッピングバッグに花束を抱えていた。

「「どうしたの?」」

 被った。

「今日のお礼がどうしてもしたくて」
「昨日一日、家を空けてしまったお詫びを」

 またしても同時に喋ってしまった。
 
「俺が作り過ぎただけだから、お礼なんていいのに」

 鷹士さんが、染み入るような優しい表情を見せてくれる。