警視正は彼女の心を逮捕する

 師匠が毎朝、ダニロに歌っていたアリア。
 
 私が中学生くらいになったあたりから、ときおり差し出されたホットチョコレート。
 ……どうして、私が落ち込んだときがわかったんだろう?

 初めてもらったブーケも、私の大好きな花ばかりだった。

「なんで、なんで……!」

 涙がにじみそうになる。

 引越しも部屋もお気に入りの花瓶も。
 みんな、彼からの気遣い。
 こんなにも私のことを想ってくれる鷹士さんに、少しでも返したい。

「鷹士さん……」

 ふと、幼い頃の記憶が蘇った。

 宗方のおじ様、おば様がパーティにお呼ばれしていた。
 悠真さんがお留守番しているところに、鷹士さんが遊びに来た。
『サナのごはんを、藤崎の台所(うち)で食べたい』
 悠真さんからリクエストで、珍しくうちの茶の間でご飯を食べたのだ。

 鷹士さんは、私のお母さんが作った煮込みハンバーグを美味しそうに食べてくれた。
 ……悠真さんが微妙な顔をしていたので、お母さんは二度と作らなかったけれど。

「あれは、どんなレシピだった?」

 気がつくと、私はお母さんに電話をしていた。