警視正は彼女の心を逮捕する

「うわああ!」

 イタリアで初めての誕生日を迎えたとき。
 師匠に『誕生日の人の、好きな料理を一日中作るのよ』と、私だけ用意してもらい。

 日本に帰るとき。
『今日はヒナノの好きなものばかり作るわね』と泣きながら作ってもらって以来だ。

 主にホワイトソースが作るのが面倒なのと、朝にそんな凝ったもの作る余裕がなくてご無沙汰だった。
 なのに。

「どぉして、鷹士さんが私の好きなもの知ってるのぉ……」

 独り言が震えてしまい、また涙が出そうになる。

 自分の好きな料理が出てくるなんて、宗方の家ではありえない。
 私達は、主家の残した物を食べるのが普通だった。
 悠真さんとの同居のときは、悠真さんの好みの味付けで彼の好きな料理ばかりを作っていた。

「なんで、なんで……」
 
 だから。鷹士さんが悠真さんに私の好物を聞いたから、はありえない。

「多分、悠真さんは私の好きな物を知らないもの」

 自分の言葉が苦く、胸に突き刺さる。

 泣きながら食べ、食べながら私は鷹士さんにメッセージを送った。

「ありがとうございます! ふるさとの味を久しぶりに食べられました!」

 私にとって、故郷の味は師匠の味。

 既読になったのは数時間後だったけれど、私は一日中幸せに過ごせた。