「結婚するからには、身辺を綺麗に(・・・・・・)しておかないと。いくら日菜でも、こればっかりはね」

 わかるだろう? とばかりに言われては、頷くしかない。
 確かに、ゆう君に『好き』と言われたこともない。

 でも……と、今までの日々が甦る。

 ご飯を美味しいと言ってくれ、美味しそうに食べてくれた。
 洗濯や掃除をすると、ありがとうと笑顔を向けてくれたこと。
『日菜はいいお嫁さんになるね』と褒めてくれたこと。

 全部、違った……?

 ゆう君はニコニコといつもの笑顔を私に向ける。

「話はそれだけ」

 ……違う。
 爽やかな口調から、ゆう君にとっては『雇い主からの、同居している家政婦への褒め言葉』だったのだと理解してしまう。

 よく考えたら、ゆう君は子供のころからお手伝いの母や、運転手の父。
 おじさまの秘書の岩田さんなど、家族以外(・・・・)の人間に囲まれて暮らしていた。