警視正は彼女の心を逮捕する

「鷹士さん!」

 いるの?
 廊下を駆け出す。
 ……なんで私、こんなにも鷹士さんに会いたいの。
 衝動につき動かされて玄関に行ってみれば、彼の靴はない。

 いない。
 失望は、思ったより大きかった。

「……気のせい?」

 首をかしげる。
 すん。
 鼻を動かす。

「……じゃあ、この匂いはなんだろう?」

 きゅーるるるる。
『早く、ご飯を食べさせろ』
 お腹に急かされてダイニングへ戻った。

 テーブルの上になにかある。
 しかも、保温プレートの上に冷めないように置かれていて、乾いてしまわないようラップがかけられてある。

 昨晩、テーブルの上は片付けをしておいた。

「やっぱり鷹士さん、いったん帰ってきたんだ……」

 嬉しい。
 でも、会えなかったのが寂しい。

「声をかけてくれたらよかったのに。……っ」

 思いかけて。
 帰ってきたのだとしたら、昨晩べそべそ泣いてたのがバレている。

 ラップの上にメモがある。
 後めたさを感じながら取り上げた。

「なんて書いてあるんだろう」

 どきどきしながら、内容を確認する。

『ごめん。作りすぎたから手伝ってくれると嬉しい』と書かれている。

 ほっとしつつ、拍子抜けした。

「朝食作ってくれたんだ」

 忙しいのに。
 じぃんと感動しながら、お皿にかかっていたラップを外した。
 見た瞬間、叫んでしまった。

「エッグフロレンティーン!」

 エッグベネディクトのフィレンツェ風。
 ポーチドエッグ、溶き卵にホウレンソウを加えモルネーソースを添えたもの。

 大好物の出現に、気分が一気にアガる。