慌てて弁解すると、鷹士さんは優しく笑いかけてくれた。

「日菜乃ちゃんも仕事をしているし、俺も家事は嫌いではないし。無理にする必要はない。できる時にすればいい」

 そんなこと、悠真さんは一言も言ってくれなかった。
 すれば感謝もしてくれたし、褒めてもくれた。
 けれど、私がするのが当然だという態度だった。

「ありがとう、ございます」

 テーブルの向こうから手が伸びてきて、くしゃりと頭を撫でられた。

「お礼なんか必要ない。二人とも同等の立場なんだから」

 いまさらに呆然とする。

「……そんなこと、言われたことなかった……」

 同時に、悠真さんと鷹士さんの、私への接し方の違いに気づいてしまった。

「私は……、やっぱり悠真さんのお手伝いさんだったんですね……」

 涙が溢れそうになる。

 鷹士さんは黙って席を立った。
 キッチンでなにかをしたあと、カップを目の前に置いてくれた。
 温かい、ホットチョコレート。

 見上げれば、鷹士さんは誠実な目をして私を見つめていた。
 この人は信じられる。
 そんな瞳。

「昨日の今日だから、切り替えが難しいと思う。だけど、この家で気を張らずに暮らしてみないか」

 なぜだか、彼の言葉がすとんと心に落ちた。

「……お願い、します」

 ぺこりと頭を下げる。

「じゃあ、出先でランチしよう。食べたい店があるんだ」

 鷹士さんの嬉しそうな表情に、とくんと心臓が甘く鳴る。