「男についてはね、おいおい」

 にっこりと微笑んでいるのに、視線が私から外れない。
 鷹士さんの強烈な目力に、もじもじしてしまう。

 ……こういうの、なんていうんだっけ。『蛇に睨まれた蛙』?

「今は聞く耳もたないだろうし」

 失礼な! と憤慨しつつ。……その通りだとも思った。

『失恋を癒す最大の薬は、次の恋』だと聞いたことがある。
 頭ではわかっていても、心はなかなか踏み出せない。
 ずっと抱きしめていた恋が壊れたのは、まだ昨日なのだ。

 悠真さんへの怒り、憎しみ。
 悲しみ、自分の愚かさを呪う。
 黒い感情が溢れて、どうしようもない。

 多分、私が沈んだ表情をしているからだろう、鷹士さんがさりげなく話しかけてきた。

「さっきの質問に戻るけど。同居祝いもかねて、ショッピングモールに出かけよう」

 いつのまにか、同居をOKしたことになってる?

「あのね、鷹士さん。男女が一つ屋根の下ってよくないと思います」

 はっきりさせよう。

 そうだ、昨日からの違和感はきっとこれだ。
 悠真さんとは、恋人同士だと思い込んでいたから同居できた。
 でも、鷹士さんには幼馴染以上の感情はない。
 人となりを理解しているとはいえ、一緒に住むってどうなんだろう。