「昨晩も言ったけど、君は悠真の傍から離れたほうがいい」

 鷹士さんに、キッパリ言われてしまう。

「……はい」

 私の顔が辛さに歪んだからか、鷹士さんはいたわりをこめた表情になる。

「誤解しないでほしいんだけど。俺が言っているのは、わざわざ失恋した男の傍で傷を抉る必要はないってこと」

 それは、もう悠真さんの元には戻れないと宣告されたも同然。
 だめだ、泣きたくなる。
 涙を見せたくなくて、俯いてしまった。

「就職と住む場所、それと男はじっくり選んだほうがいい。というのが俺の持論」
「え?」

 鷹士さん曰く。焦るとよくないモノを掴んでしまうのが、この三つなのだと。

「今の日菜乃ちゃんの美術修復士という仕事。これは君の天職だから問題はない」

 彼に太鼓判を押してもらえて頬が緩む。

「次に住むところ。いずれ俺の家から出るなら、腰を据えて探すべきだ」

 職場とは、ほどよい距離があるほうがいい。だが、心理的肉体的負担がない遠さが大事だという。

「……確かにそうですね」

 あまり近いと心が休まらない。かといって遠いと、今度は肉体的に辛くなる。
 
「日菜乃ちゃんの場合、重度の修復オタクだから」

 失礼な。
 むうと口を尖らせてしまった。

「美術品になにかあったら、駆けつけられる距離にいたいだろう?」

 ……なんでバレているのかな。
 バツの悪い顔をしていたのだろう、鷹士さんが諭すような口ぶりになる。

「冷静に考えてご覧。日菜乃ちゃんの職場はどこかな」
「お濠端です」

 そうだね、と同意される。