「ま、冗談は置いておいて。とりあえず、食べよう」

 ダイニングテーブルを示された。

「……はい」

 鷹士さんが紙袋の中身をお皿にあけてくれて、私の目の前においてくれた。

 目を見張る。
 クロワッサン、ビスケットとジャム。それにカプチーノ。典型的なイタリアの朝ごはん。

「懐かしい?」

 問われて目を上げると、ニコニコしている。 

「はい!」

 久しぶりだった。

 師匠お手製のアルビコッカ(=杏)のジャムの味まで脳裏によみがってくる。
 同時に、懐かしいシーンを思い出す。

 師匠のお宅の庭に杏の木が植わっていたっけ。
 時期になると、もいでいた。
 生食にしたり、食べきれないとジャムにしていた。

 ……お宅に杏の花を見に行って、師匠に抱きつきたいな。
 鼻の奥がツンとなる。
 
「だと思った。食べようか」
 
 鷹士さんは私が目をうるうるさせていることに気づかなかったのか。
 ううん。目敏い彼のことだもの、スルーしてくれたのだ。

 しばらく、無言で食べることに専念する。
 ……それぞれ、二杯めのカプチーノを飲んでいると、鷹士さんが言い出した。
 
「日菜乃ちゃん。今日、暇?」
「はい」

 大物の修復にかかると、チーム一丸となって休日出勤もするようになる。
 けれど今はひと段落ついているので、そんなことはない。

「じゃあ、日用品を買いに出かけよう」

 誘われて、私は慌ててしまった。

「あの、お気遣いなく。すぐに出ていきますから」

 すると、上目遣いをしてきた。

「日菜乃ちゃん?」

 う。
 鷹士さんの、この目線と言い方は、要注意だ。
 私がきかんきを発揮するとき大体、この口調になる。
 身構えた。