「それは万々歳だけど」

 ……私が情報を漏らしたことの報復で、二人が多額の賠償金を請求されてしまったら。
 もちろん、私が一生かけても払う。
 でも両親は私が肩代わりするのをよしとせず、残りの人生を奴隷のように過ごそうとするかもしれない。

「どうしよう……」

『贋作を鑑賞している人達を騙されたままにしてはいけない』と高揚していたのは、調べる前。
 いざ告発しようとすると、恐ろしくなっている。

 贋作は悪いことだ。
 でも。

「身近な人の幸せを壊していいのかな」

 取り返しがつかなくなるかもしれない。

「私に責任が取れるの?」

 体の中から震えが生まれてきて、止まらない。

「……もしかしたら……私が黙っていれば、丸くおさまる……?」

 呟いた声は百年も生きたかのようにしゃがれた声。

 お父さんやお母さんに『なんてことをしてくれたのだ』と罵られるかもしれない。
 下手すると、一生絶縁されてしまうだろう。
 
「鷹士さんだって、私のことを美術館の『音声ガイダンス』としか思ってないだろうに」