『鷹士』

 悠真が呼びかけてきたので、室内が緊張した。
 鷹士の眼がわずかに眇められる。

『ギャラリー榊の地下に、大きな金庫がある』

 捜査員達がハッとなった。
 鷹士の眼も見開かれる。

『綾華が教えてくれた。買い取った作品は状態を確認するため、まずはそこに保管すると』

 そこだ、と捜査員らは一斉に色めきたつ。

『ギャラリー最奥の右側にある、真鍮の燭台を押すといい。地下室への階段が現れる』

 令状をとれ、と鷹士は身振りで指図する。
 捜査員の一人が会議室を飛び出して行った。

『鷹士。お前のことだから、なにかの捜査で榊の義父が怪しいと思っているんだろう?』

 悠真からの問いかけに、返事はしない。

『好きにするといい。僕の政治家人生も終わりだ』
 親友の全てを諦めたような口調に、鷹士は思わず声を出した。
「まだ始まったばかりだろ」

 捜査員達の動きが止まる。
 彼らは、自分達を指揮する若きエリートをじっと見た。

 鷹士は彼らに構わず、悠真に語りかける。

「お前はまだ若い、これからいくらでもやり直せる。数十年後。互いに政治家と警察官としての職務を全うしたあと、学生の時みたいに酒を飲んで夢を語ろう」

 真摯な呼びかけに、親友からの返事はなかった。