資料によると、マル被・宗方悠真、上司の賀陽鷹士、そして上司の妻・日菜乃。
 彼らは三人とも幼馴染だった。
 彼女を取り合って、男二人は火花を散らしていたのだ、と一同は察する。

「今、俺の前にいる彼女が日菜乃本人だ」
  
 堂々と惚気る上司。

「……課長。クールマンどころか、実は激熱な人だったんだ……」

 誰かがまたも独りごち、同時に鷹士の本質に目を丸くする捜査員が続出した。

『僕の前にいた日菜は、本当じゃない……?』

 相変わらず生気がまるで感じられない悠真の声に、課長補佐が顔色を変えた。

「……まずい、宗方は自殺するかもしれない。待機している班を急行させろ」
 
 課長補佐が指示を出し、捜査員数人が動こうとした。
 が、鷹士は手をあげて制止する。

『今日の、僕の目を見て自分の意見を話す、眩しい女性が日菜の本当の姿か。……僕はなにか、彼女が嫌うことをしていたのか? 日菜が僕を幸せにしてくれると信じていたのに』

 


 永い沈黙のあとに。

『もしかしたら、僕は。彼女にとっての北風だったのか』

 有名な太陽と北風の寓話。

『……僕が間違っていたのか。もう、僕の許には戻ってきてくれないのか』

 辛そうな声で呟く悠真に、鷹士は言い放つ。

「言っておくが、日菜乃は宗方の『モノ』じゃない」

 瞬間、悠真の声に鋭さが宿る。

『ならば彼女は、お前のものだとでも言うつもりか!』
「違う。俺が彼女のモノなんだよ」

 妻に惚れきっているのがありありとわかる鷹士の表情に、捜査員らは照れた。