「当たり前」

 別の誰かが小さく呟く。

 ……出世街道を望む以上、宗方悠真の考えが理解できなくはない。
 しかし悠真の言動は、女性からしたら刃傷沙汰に及んでも不思議はないほどの侮蔑行為。

 自分の残酷な言動を理解していない宗方悠真は、たしかに賀陽日菜乃が言ったように『可哀想』だった。

『僕は、結婚と恋愛は別物だと信じて生きてきた』

 ゴクリ。
 捜査員の一人が嚥下した音がいやに響く。

「……プリンス、課長と奥さんの邪魔すんなよ?」

 願う声が会議室内に沁み通る。
 妻の言葉と、警視正の立ち居振る舞いを見て、二人に好意的な捜査員が増えていた。

『久しぶりに会った彼女は変わってしまった』

 悠真の嘆きに、捜査員の目が再び捜査二課課長に集中する。

『以前は楚々として、物静かで。僕のことを慮ってくれた、思いやりの出来る女性だったのに』
「それはお前の幻影にすぎない」

 間髪入れずに鷹士は反論した。

「……課長。今度は応えちゃったよ」

 誰か呟き、周囲に叱責される。

「もともと彼女は溌剌として、意気軒昂で好奇心満々な少女だった」

 つまりはお転婆と誰かが失言し、慌てて口を塞がれる。

「それを宗方家が抑圧した挙句、彼女の性格を溜めたんだろうが」

 上司の口調に抑えきれない怒りがある。