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 明後日は私の二十六歳の誕生日。
 ……でもデートの予定はない。
 私はお気に入りの美術修復関係の資料を見ながら、またしても机で寝てしまった。

 翌朝。
 トントンと軽やかなノックで目が覚める。

「日菜、起きているか? 話したいことがある」

 ドアの外から、恋人のゆう君から声をかけられた。

「ちょっと待ってて、支度するね」
「ああ。リビングで待っている」

 私は服を着替え始めながら、ドキドキしていた。
 なんだろう? 彼の声がとても真剣だった。

「……もしかしたら、プロポーズされるの……?」

 ゆう君こと、宗方(むなかた)悠真(ゆうま)さんは、私が生まれたときからの幼馴染。
 五歳上で三十一歳、同居歴一年だ。

 彼の家は代々政治家だ。
 今は外務省で働いているけれど、そろそろお父様の地盤を継ぐために辞めるのかもしれない。
 と、なると。

「出馬する前に結婚しておこうってことなのかな」

 私はまだまだ半人前だけど。
 ゆう君は、結婚すぎるのに早すぎる年齢ではない。
 多分、政治家を目指すのならば、早く家庭を持ったほうが投票者からの信頼も得られるだろうし。

 服を着替える。
 鏡で涎がついてないことを確認した。
 軽く化粧して、部屋を出る。

「お待たせ!」

 息せききって駆け寄れば、ゆう君はニコと微笑んでくれた。