「……理解できない」

 宗方悠真は、立ち去る幼馴染を見ながら呆然と呟いた。

 互いに愛人を囲っている両親を見て、育ち。
『結婚と恋愛は別物』と教わって育ってきて、それを疑いもしなかった。

 だから恋人は人脈作りの一環として作ってきた。
 結婚についてのアプローチも多々あったが、妻としては政治家であることを後押ししてくれる榊綾華を選び。

 ……藤崎日菜は、自分を癒してくれる存在として終生、傍におこうと思っていた。
 否。
『日菜が僕から離れるはずはない』
 それは、悠真が唯一持ち続けていられた自信だった。

 しかし、日菜は綾華と結婚することを報告した途端、いなくなってしまった。
 空っぽの部屋を見たときの絶望感は、言い表せない。
 親友の家にいることが判明したときには、激しい嫉妬に駆られた。
 それでも。

「日菜が鷹士と結婚すれば、いずれ僕の元に戻ってくると思っていたのに」

 彼女がいなくなってからずっと、『ようやく理想的な形になっただけだ』と言い聞かせてきた。

 なのに、彼女は親友を愛しているのだという。
 結婚相手なのに?
 
「意味がわからない」

 ふたたび呟きながら、親友の賀陽鷹士に電話を掛けたのは無意識だった。