でも……。
 首をひねる。 

【群青】を美術館で見た瞬間、強烈な違和感に襲われた。
 そして宗方龍仁氏からの貸し出しではなく、美術館所蔵になっていることに疑問を覚えた。

 子供の頃から、おじ様に美術品への執着めいたものを感じている。
 政治資金捻出のため、売却したりするのかな。
 もし。

「今も本物がおじ様の手元にあるとしたら……」

 ゴクリと喉が鳴る。
 展示品がニセモノということになってしまう。
 贋作かどうかを見極める証拠はあるのだろうか。

「私が見たのは一回きりだし」

 子供の勘違いで済まされてしまう話だ。
 けれど腑に落ちなくて、必死に思い出す。

「……あのとき」

 私がおじ様の書斎にうっかり入り込んで、【群青】に見惚れていると。
 おじ様が戻ってきて、私を抱っこしてくれた。

『綺麗だろう』
 おじ様の自慢そうな問いかけに、コクコクと頷いた。

『ヒナは審美眼があるようだね』
『シンビガン?』 

 私が首をかしげると、おじ様は笑みを深くした。

『見る目があるということだ』

 ご覧、とさし示してくれたのは、今思えばサイン。

『ここにはね、初めは青井宗佑とサインがあったんだよ。書き直させたんだ、素人にネームバリューはないからな』