「あれ、賀陽さん?」

 職場に戻れば、声をかけられた。

「忘れ物しちゃって」

 てへ、と頭を掻いてみせる。

「新婚なんだから、早く帰りなさいよ?」
「はい」

 私はおざなりに返事をして、資料室に駆け込んだ。
 データ検索用パソコンの電源を入れる。

 世界中にある美術館や博物館の、所属品リストを納めるデータバンクを呼び出すためだ。
 これは企画展のとき、所蔵者に連絡し貸与について交渉を行ったり、連携を取るときに活用される。

「警察の、相互協力体勢みたい」

 クスッと笑ってから。
 教えてくれたときの、鷹士さんの胸筋や抱きしめてくれた腕を思い出してしまう。
 心臓が甘く高鳴り、体が潤いはじめる。

「私のえっち! 今はそれどころじゃないでしょ!」

 両頬を叩き、慌てて煩悩を抑え込む。

「【群青】のデータがありますように」

 ……もちろん、加盟していない館のデータは見れない。
 加盟していても、館が所蔵品を全てオープンにしているとも限らない。
 展示物が個人オーナーからの委託品だったり、状態の関係で貸し出せないといった事情もあるので。

「あった!」

 ……データによると。
 【群青】は二十年前に個人所有から、画商を介して美術館所蔵となっていた。
 
「おじ様はやっぱり売却してたんだ」