「行き先はどちらにされますか」

 運転手さんに訊ねられ、鷹士さんとの家がある住所を答えようとして、やめた。

 思い出したのだ、鷹士さんに抱いた違和感を。

 イタリアの美術館で【群青】を見たとき。
 結婚詐欺師かホストか。どちらも知らないけれど、とにかく!
 鷹士さんが、胡散くさいほどに色気を増し増しにしてきた。
 
 ……その晩。私を組み伏せた鷹士さんが、夜の帝王のようだったことを思い出して、体温が上がる。

「藤崎様?」
「賀陽です」

 訂正したあと、改めて職場の住所を伝える。
 それから、目隠しされた車窓に目を向けた。

 修復は、なにより調査だ。
 なにが原因で、私達の幸せが危機に陥っているのか、考えるんだ。

 私を抱きしめてくれていた、鷹士さんの体がぴくりと跳ねたのは。

「宗佑さんが描いた、サイン……?」

 そして宗方のおじ様が【群青】が所蔵されていることを漏らしてしまったときだ。

 あのとき、鷹士さんはおじ様が贋作に携わっているかもしれないと疑った?
 気取られないため、あえて私を腰くだけにしたんじゃないだろうか。

 なぜ?
 ……おじ様を捜査していることを私が知ったら、おじ様に告げてしまうから?
 私は、そこまで信用がないんだろうか。