「申し遅れました、わたくしはTOKAI交通の田中でございます」

 ……この人は無関係ぽい。
 外に目をやれば、車窓にはレースのカーテンが掛けられていた。
 私も外を見えないけれど、外の人も私が見えないようになっている。
 運転席とも仕切りがある。
 怪しさ百パーセント。

 思いついて、鷹士さんにメッセージを送信した。

『悠真さんに誘われて出かけます。意味不明、行き先不明、帰宅時間不明です』と。
 送ってしまってから気づく。

「……どうせ、既読にならない」

 呟く。
 苦しい。
 鷹士さん、今どこでなにを考えているの?

「どうかなさいましたか」

 マイクがあるのか、男性に訊ねられてしまった。
 無視する。
 運転手さん、いやな女でごめんなさい。


 ……どれだけ走ったのだろうか。
 携帯を見る気にもなれなかった私は、眠っていたらしい。

「藤崎様、到着しました」

 男性に声を掛けられた。
 
「……嫌だ、降りないって拒否権はないんだろうな……」

 しぶしぶ車の外に出れば、地下駐車場のようだ。

 お仕着せの着物を着た女性が待機してくれていた。
 女性は小腰をかがめて「こちらへ」と導いていく。

 エレベーターをあがると、日本庭園の中の四阿、という風情の場所に出た。

 足元が暗くない程度に灯りが灯されている。
 打ち水されているし、葉っぱ一枚落ちていない。
 こんな状況じゃないなら、鑑賞したかった。

 やがて、離れのような建物に案内された。

「お連れ様、いらっしゃいました。

 入り口をくぐる前に、女性が中に向かって声をかける。