けれど悠真さんが期待すら抱かせてくれなかったのは事実。

 彼から連絡もらったことがない。
 誕生日を祝われたことがない。
 一緒の外出すらなかった。

「悠真さんは政治家になるべく育てられて」

 後押ししてくれる女性との結婚が必須だったのだろう。
 私ではいくら彼のことを好きでも、役に立たなかった。

「……だからこそ、なにも与えられなかった?」

 私は、悠真さんが好きなことを本人にも隠していなかったから、彼はきっと苦笑していたのだろう。

「約束出来ないから、抱いてくれなかったのかな」

 与えられないなりに、精一杯誠実に対応してくれていたのかもしれない。

 悠真さんの言動を善意だととりたいのは、綾華さんの言葉のせいだ。

「私が本命だったって本当?」
 
 だとしたら、私は。

 *

 ……夫がいるのに、初恋の人を思いだした罰が当たったのだろうか。

「藤崎日菜様でございますね、お迎えにあがりました」

 寝不足のまま仕事に行って、なんとか修復を進め。
 ぐったりしながら職場の通用口を出ると、スーツを身につけた男性に言われた。

 私はひそかに天を仰いだ。
 もうやだ。
 ……こんなことが続くと、トラウマになりそう。

「通用口を使うの、やめようかな……」

 絶対に、宗方の家がらみだ。
 あの家しか、私を『ひな』と省略して呼ぶ人達はいないのだから。
 鷹士さんと籍も入れているのに、私をずっと旧姓で呼ぶ。
 これが含みでなくて、なんだというのか。

 従わない。
 私は鷹士さんと暮らすなかで、意思を相手に伝えてよいのだと教えてもらっていた。