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 帰国後。
 鷹士を待っていたかのように、贋作被害がある管轄署の調書が集められ、捜査本部が立ち上げられた。

 ……万が一、宗方龍仁と及び悠真が捜査線上に上がってきたとき。
 自分と妻の日菜乃は重要参考人に近い立場にあることを、上司である刑事部長には告げた。

 公正を期すため、捜査本部から外して欲しいとも。
 しかし部長からは『なんのために、君に捜査二課を任せたと思う』と、逆に問われた。
 
「部長の双眸に激しい嫉妬があった」

 被害妄想ではない。
 口はばったいが、自分は優れていると他人から評されている。
 物心ついてから、好悪の感情に晒されてきた。
 
「自分に向けられている、他人の感情を間違えはしない」
 
 あの日。
『犯人逮捕に向け、鋭意邁進いたします』と敬礼を返すしかなかったが。

 今日。
 こうなるのを予測しての人事だったのかと悟った。
 ならば。

「……日菜乃は私のせいで嵌められた可能性が高いな」

 課長補佐が示唆したとおり。
 悠真の妻綾華が日菜乃に接触してきたのは、自分達夫婦を関係者に引き込み、捜査の撹乱を狙っているのだろう。