日菜乃が己の腕の中で盛大に首を傾げる。

「おじ様の所蔵品はレプリカだったかもしれませんよね。でも……、……おじ様は本物志向のはず…………?」

 段々と小さくなっていく妻の言葉を聞き逃さない。
 鷹士は用心しながら誘い水を飲んでみせた。

「そう思ったのは?」

 日菜乃は逡巡したあと、ポツリと呟いた。

「サインが。宗佑さんのものとは違う、ような気がして……」

 いつも同じ位置に同じ大きさで角度も同じなのに、と呟いたあと。
 慌てて日菜乃は言い訳をした。

「ただ、私も子供の頃に一度見ただけなので……。この頃の宗佑さんは、月さんを失った心情からの乱れもあったかもしれませんし……」

 そうだね、と鷹士は微笑んでみせた。
 普段、彼女に向けると赤面確実の笑顔で、だ。

 予想通り日菜乃は、う、と声を漏らしたあと真っ赤になった。
 可愛いいなぁと思いながら、妻の気をそらせるべく質問する。

「それで? この絵の魅力は?」

 あえて、日菜乃が『セクシーヴォイス、外で使わないでください! 腰くだけになっちゃう』と抗議してきた口調にした。
 かくんと膝を崩した所をしっかりとだきしめる。