『蒼伊月』と、画面に書き込まれた日本語が作家名なのだろうが。

「……あおい、つき?」

 鷹士は眉を寄せた。

 色彩に寄せたペンネームなのだろうか。
 日菜乃が絵に魅せられたまま呟く。

「彼女は」
「彼女」

 おうむ返しに呟く。

 意外だった。
 芸術家は男性のほうが多いと、勝手に思い込んでいたからだ。
 ……現代でもそうだが。
 家事と育児を求められる時代の女性達が芸術活動を行うのは、男性より大変だったのではないかと考える。

「夭折の画家です」

 十代の頃に彗星のごとく画壇に現れ、二十代の終わりには亡くなったという。

「彼女の名前を『そう•いつき』さんと読む人が多いです。ただしくは『あおい•つき』さんです」

 正解だったことに内心、ガッツポーズをした。
 ……シャレかと思ったことは内緒だ。

「結婚前の名前は、金子 月さん。彼女は三つ子の次女で、姉は雪さん、妹は花さんだったと、旦那さんの手記にありました」

 日菜乃の言葉に、鷹士は呟く。

「雪月花か」
「はい」

 自然の美しさを表す言葉だ。
 なかでも春の花、秋の月、冬の雪を指すという。
 花鳥風月とならび、日本語がいかに美意識の優れた言語かとわかる。

 
 鷹士の母の名前も「花」だ。
 キャプションに書かれている生年を見れば、偶然にも画家と同い年。
 
「……たしか母の旧姓は、室井だったはず」

 無意識に関連づけようとしている自分に、鷹士は苦笑した。