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 イタリアの新婚旅行で美術館巡りをしたときにはまだ、贋作事件の捜査本部は設置されていなかった。

 目的地にイタリアを選んだのは、愛妻日菜乃を喜ばせるため。
 そして自身の勉強を兼ねていた。

 鷹士は元々なんでも器用にこなし、常に成績トップをキープ。
 好まざるとも、スクールカーストのトップにいた。

 ……スポーツ万能で音感やリズム感もよいのに、なぜか美術にだけ苦手意識を持っている。
 警察庁に入ってもキャリア組として順調に昇進していた鷹士であったが、美術については相変わらず。

 一方、日菜乃は修復士の道に進んだほどだ。
 話の内容はさっぱりわからずとも、恋しい女性のキラキラした表情を見ているだけで十分だと思っていたが。

 ……捜査二課の課長に就任直後、管轄署から美術品詐欺の噂がちらほら聞かれるようになった。

 画廊で絵画を購入したはずが、ふとした拍子に贋作であったことが判明したという。
 非常に精巧で、画商も見抜けなかったほど。

 詐欺は、自分が就任した捜索二課が担当する。
 これが広域事件と認定されれば、自分が指揮することになる。

 警視庁が指揮を取るような大事件が発生する前に、鷹士は日菜乃に教授してもらおうと考えたのだ。