……ただ。
『強引な手口で、宗方家に最愛の品を奪われた』と、恨みがましいことを口にした老人もいた。
 被害妄想かもしれないし、事実かもしれない。

 場合によっては、龍仁所有のときから贋作だった可能性もあるだろう。

「悠真が絡んでいるかは定かではないが。綾華が、父親の指示で動いている可能性は濃厚だ」

 ……榊を操っているのは宗方龍仁であろうと。
 後援会が罪を犯しているのを、とうの龍仁(ほんにん)が知らないはずがない。

「だが」

 政治家として未知数である息子の悠真はともかく。
 宗方龍仁という人物は、異様なほどにクリーンな政治家なので、捜査の手を伸ばすことが出来ないでいた。

 龍仁が手放したコレクションは全て適正な評価値で売買されている。

 ……悠真への態度を知らなければ、鷹士は今も龍仁を立派な政治家だと思っていたかもしれない。
 しかし息子への冷たい言動を見てしまってからは、宗方龍仁という政治家は二面性があり冷たい気質の人だと鷹士は考えている。
 以来、龍仁の前では本音を悟られないようにしていたし、警察に入庁してからは交流を絶っている。

 龍仁を疑うようになったのは、他ならぬ日菜乃の一言がきっかけだった。