しかし、疑念の目が鷹士から離れたわけではない。
 むしろ、鷹士の一挙手一投足を見逃すまいとしていた。

 視線を受けながら鷹士は愛おしい妻のことを考える。

 日菜乃が悠真宅を出てから半年以上、一言も親友に対して言及したことがない。

 おそらく彼女は、悠真を忘れようと必死だったろう。
 貞操観念がきっちりしている日菜乃が、妻帯している悠真に近づくはずがない。

 鷹士にとって、妻は百パーセント無実だ。
 けれど捜査員にとっては、限りなく黒に近い存在に違いない。

 日菜乃が捜査の枠に入ってしまったことにより、鷹士の言動にも疑いを持たれる。
 自分はいい。
 しかし。

「今の時点では、賀陽日菜乃はグレーだ」

 自分の声が震えていないことに、鷹士は不思議に思う。
 だが、肚の中ではマグマのような怒りが(たぎ)っている。

 悠真は、いや宗方家は。
 どれだけ日菜乃を傷つければ済むのか。

 握り込んだ拳の中で、爪が手のひらに食い込む。

「……捜査に勘づいた宗方綾華の、偽装工作の可能性も否定できない」

 課長補佐が鷹士を慮った見方を言い添える。
 だが、捜査員達は胡乱な視線を弱めない。
 鷹士は無感情な声で言い放つ。

「これより私は、日菜乃と接触を断つ。彼女も監視対象に入れろ」

 室内がざわついた。

「車がどこに向かったか、監視カメラの映像を集めろ」
「はい」

「分析班、車内の人員の唇の動きを分析でき次第、報告」
「は」

「本日は解散」

 最後まで、鷹士は冷徹を貫き通したが。