『俺が警視正であることが都合の悪い人間がいる』
 そうなんだ、と思った程度だったけれど。
 警察って、犯罪者からすると敵だものね、と。

『そうした奴らは君を攻撃してくるかもしれない。一番ありえるのは金品の贈賄だ』
 それでも、まだ私は軽く考えていた。

『たとえファストフードであっても奢られたりしたら、日付と金額を教えて欲しい』

 驚いた、そんな少額でも賄賂と見做されるんだ。
 私の顔を見て、鷹士さんがすまなさそうな顔をした……まで思い出し。

「綾華さんからのお金は贈賄になるのでは?」

 血の気がひいた。
 綾華さんが『賀陽警視正夫人に三百万渡した』などと、誰かに告げてしまったら大変だ。

「私が突っ返したことを誰も知らない。……そうだ、鷹士さんに報告しなくちゃ!」

 携帯に今日のやりとりを打ち込む。
 途中で指が止まった。

「……もしかしたら、綾華さんの言っていた『守秘義務』を逸脱しているのかな」

 もちろん、宗方の家のことや悠真さんのことを漏洩するつもりはなく。
 けれど、黙っていることにも耐えられない。
 私はことのあらましを出来るだけ詳細に書くと、鷹士さんのアカウントへ向けて送信ボタンを押した。

 ふー、と一息をついてから、恋しい(ひと)を思う。