『賀陽さん、日菜乃をお願いします』

 開口一番、お父さんに頭を下げられたので、これには鷹士さんも驚いた。

『婚姻届も送ってくれたら、サインして捺印して返送します。面倒ならば、職場の人に頼んでくれて構いません』

 まさかの挨拶拒否。

「……もしかして、私達のことを反対しているの?」

 そんなこと、予想もしていなかった。
 私のことを後押ししてくれる両親だから、今度も喜んでくれるとばかり……。

『違う、俺も母さんも喜んでる!』

 語気を強めたあと、急にお父さんは辺りを窺うような表情になり、小声に戻る。

『申し訳ないが。結納も両家顔合わせも、結婚式も出席できない』と断られた。

「え?」

 どうして。
 三百六十五日、一日も休みがないような両親だが、さすがに娘の結婚式くらいお休みをくれるだろうと反論してみる。

「なんで? 宗方のおじ様やおば様が忙しくないときなら、お父さんだって……!」

 なんだったら、私からお願いしてみようといいかけ。
 お父さんは、苦々しく囁いた。

『あの人達は、俺らが外に出るのを嫌うんだ』

 両親は、宗方のおじ様の勧めで結婚したらしいけれど。
 結婚前もデートなどで外出が許されたことがないという。
 初めて聞く話に目が丸くなる。

『使用人が一般人みたいな振る舞いをするのを、あの人達は許せない』

 まさか、そんな。