次に気がついたときには、バスルームの浴槽だった。

「悪かった、暴走した」

 あまり反省していないような口調だったけれど。
 謝罪の言葉とともに、柔らかい唇が触れてきた。
 同時に冷たい液体が喉に流れ込んでくる。
 美味しい。
 喉が乾いていたの。

「……もっど……」

 ねだると、二度三度と流し込んでくれる。
 ほわほわと温ったかくて、優しく髪を撫でてもらい、ときおり濡れた花びらのような感覚がおでこや瞼など、そこここに落とされる。

 なんて言うんだっけ、こう言うの。
 そう、確か。

「Tira-mi-su……」

 私がうっとりと呟けば、後ろで支えてくれているなにかが、ひぐ、と変な音を漏らした。

「どぉしたの?」

 目をつぶったまま、もたれていたなにかに、頭をぐりぐりと擦りつける。
 
「この小悪魔!」

 忌々しそうに呟かれたあと、なぜだか乱暴に口を塞がれた。

「んっ」

 無茶苦茶口の中を暴れ回るキスは、タップするまで離してもらえなかった。

 …………なしくずしに始まってしまい。
 それでも『今度は絶対に意識を保っているんだから!』と決意して。
 わずか何分後あるいは何秒後には、私は怒涛の渦に巻き込まれてしまった。
 覚えているのは。

「日菜乃」
「可愛い」
「綺麗だ」
「愛している」

 熱い息と共に囁かれたことと。
 彼の体から落ちてきた汗が熱かったことや。
 揺さぶられて視界がブレるので、目を閉じたこと。