警視正は彼女の心を逮捕する

『確かに美味しい! 天国へ行く心地だよね』
 納得した私が同意したのに、苦笑されてしまったっけ。

 同僚曰く。

『十八世紀頃のヴェネツィアでは強壮剤のデザートとして食べられていたんだよ』

『そういえば』

 確かチョコレートって、最初は薬扱いされていた。

『今でも、夜にしか出さないという店もあるんだよ。アモーレな夜を迎えたい女性が、恋人にティラミスを振る舞うためにね』

 ウインクとともに、バンビーナ・ヒナノはまだだめだよ、と言われたんだっけ……!

「…………わたし。そんな顔をしています、か……?」

 二人っきりの車内で、プロポーズしてくれてOKした相手に。
『休みの間中、ベッドから出さない』と宣言してくれた鷹士さんに、ティラミスな表情を見せる。
 それは。
 抱いて気持ちよくさせて、ってねだってるも同然で!!

 信号がかわって鷹士さんの手が離れた瞬間、私はパッと両手で顔を隠した。

「見せてくれないのか。日菜乃は意地が悪い」

 真反対の抗議をされてしまう。
 鷹士さんの声が拗ねている。

「だって、無自覚で……!」

 誘ったも同然なことをしてしまい、無茶苦茶恥ずかしい。

 唸り声が聞こえてくる。

「この天然小悪魔め」

 忌々しそうな言葉だけど、私には照れ隠しにしか聞こえない。
 
「手を出せない状況で煽ってくるとは、悪い女だ。家に着いたら、覚えてろよ」

 待って、煽った覚えなんかないし!