ざわめきが一段落した。

「鷹士さん。そろそろ自分で歩けるから、おろして?」

 すたすたと歩くまま一向におろしてくれない彼に、小声で頼んでみた。
 上機嫌でアリアを鼻歌で歌っていた鷹士さんは、楽しそうに問い返してくる。

「どこに? 俺の膝の上? それとも、俺のベッドに?」

 なんてこと言うの!?

「どっちもだめ!」
「じゃあ、このまま」

 ……併設のレストランに連れて行かれるまで、私はお姫様抱っこされたままだった。

  *

 オーダーが済み、マナー違反じゃない程度に私は周囲を観察した。

 観葉植物と美術品が置かれ、テーブルとテーブルの間はほどよく距離が空いている。
 インテリアに造詣は深くないが、センスいいと感じる。

 テーブルの上にはキャンドル。
 店内は間接照明で、光度は控え目。
 ピアノの生演奏が静かに、けれど耳に残るくらいの音量で聞こえてくる。

 レストラン自体は美術館本体と渡り廊下で繋がっている。 
 空から見ると、全体はコの字型になっているという。

 中庭にはライトアップされた屋外展示物が配置されている。
 幻想的な雰囲気を味わいながら食べるの、とっても素敵。

 ここがデートコースっていうの、納得。
 ……もしかして……、私とのデートってことなのかな。
 でも、聞くのは照れくさい。