幸せの道しるべ~理想の時間に逢えるカフェ

*柊、過去の記憶

 二年前、今日のように雪が降る日。ふたりが帰った後に剛が柊にふたりの話をした。

「さっき来たふたり、実は元夫婦なんだよ。また来ると思うから、知っていてほしい」
「今もご夫婦のように見えたけど……元、ですか?」

 柊は皿を洗いながら片眉を上げ、剛と目を合わせる。剛は、カウンターに飾られている小さなシマエナガの木彫りをそっと撫でながら、穏やかに答える。

「そう。あの女性、奈津美さんの頭の中はね、さっき一緒にいた男性、中野さんの記憶だけが綺麗になくなってしまったんだ。だけど不思議なことに、このカフェでは過去の、ある特定の時だけがよみがえる。奈津美さんが、産後の辛さを中野さんに打ち明けようとした時の記憶だよ」

「でも今、中野さんの記憶だけが奈津美さんの頭の中からなくなったとか、そんな風には全く見えなかったような……ふたりの関係はすごく親しそうにも見えたし……」

「だよね。もう一度、最初からやり直して、今みたいになったんだ。中野さんの方からアプローチしてね。上手く説明できないから、とりあえず閉店したら、観てみる?」

「観る?って、何を――」
「中野さんが下見に来た日をここで」
「そんなこと、出来るんですか?」