幸せの道しるべ~理想の時間に逢えるカフェ

「……あのね、優里が夜、泣き止まなくて、もう限界かも。夜、私も眠れなくて、最近特に泣き止まないし。全部が辛くて、限界がきてしまって……久しぶりに今、実家に優里を預けているけれども親に迷惑掛けてないかな?って気が気じゃないし――」

 奈津美は深いため息をつくと、うつむいた。
 テーブルに置かれたコーヒーの蒸気が、奈津美の顔をぼんやりと包んでいく。そのまま消えてしまうのではないかというほどに。

中野は深くうなずき、目を閉じる。静かにふっと息を吐いた。息がかかったのか、タイミングよく奈津美を包んでいた蒸気は消えた。そして目を開けた中野は、静かな声で奈津美に語りかけた。

「俺は、優里が生まれてから仕事や自分のことで精一杯だった。奈津美の気持ちに気がつけなくて、ごめんな。会社に頼んでしばらく休みをもらう。ふたりのそばにいて、優里の世話もするし、家事も一緒にやる。奈津美は、ひとりじゃないから……一緒に頑張っていこう?」

奈津美は驚いたように目を見開き、しばらく言葉を失った。やがて、大粒の涙がこぼれ落ち、安堵の表情が浮かんできた。

「ありがとう……。聞いてくれるだけで良かったのに……ありがとう、ありがとう……」

 一気に奈津美の涙が溢れ出した。

 柊がこのふたりの事情を剛から初めて聞いたのは、同じような会話をしていたふたりを初めて見た日だった。柊はあの頃をふと思い出す。