幸せの道しるべ~理想の時間に逢えるカフェ

このふたりは、柊がここでバイトをはじめた二年前から、何度も貸切を予約して来店し、毎回同じような会話をして帰っていく。

「お兄さん、和風プレートとコーヒー、チーズケーキも。全部ふたつずつでお願いします」と予想通りの注文を中野がした。
「かしこまりました。チーズケーキとコーヒーは、いつお持ちいたしますか?」
「プレートと一緒のタイミングで大丈夫です」

 柊は注文をメモし、間違いがないかふたりに確認すると、調理をする剛に伝えた。
柊はカウンターに戻り、豆を挽く。コーヒーマシンの軽い蒸気音が店内に響き、豆の香りがさらに濃密に広がる。チーズケーキを冷蔵庫から取り出して白い皿に乗せる。ミントの葉をケーキの真ん中に添えた。完成した料理とそれらを一緒にトレイに乗せ、テーブルまで運ぶ。近くに寄ると、奈津美の微笑みと中野の優しい視線が交錯する瞬間を目にした。言葉では言い表せない、長い期間をかけて積み上げられたふたりだけの世界が、そこにはあるような気がした。

 柊はふたりを見つめ、口元が自然と緩み、目を細めた。心のどこかで、ふたりの絆に羨ましさと温かさを感じていた。

 奈津美が「ありがとうございます」と穏やな声で言うと、柊は「ごゆっくりどうぞ」と、声のトーンを合わせて頭を下げた。

 その後、柊と剛はランチの仕込みをする。するとふたりの、いつもの会話が耳に入ってきた。柊の視線は今日も自然にそっと、ふたりのもとへいく。

「ねえ、相談があるのだけど……」と奈津美が上目遣いで中野に言うと「どうした? 何でも言って!」と中野は勢いよく身を乗り出した。
「ふふっ、いつもと違う反応!」
「だって、奈津美が相談するなんて……珍しいから」

 奈津美は弱々しく笑ったあと眉尻を下げ、中野に申し訳なさそうに伝えた。

「……あのね、私、もう限界かもしれない」
 中野は顔をこわばらせ、息を呑む。

「大丈夫? 奈津美にとって何が限界なのかすごく心配で気になるから、今すぐに教えてほしい」

傍から見ると大袈裟だと捉えられるほどの中野の言い方。奈津美は中野を見つめると、唇をぎゅっと結んだ。そして目元に滲む涙を堪えるようにしながら、ゆっくりと話し始める。