幸せの道しるべ~理想の時間に逢えるカフェ

 忙しい時間が過ぎ、十七時になる。この季節だと、もう辺りは暗い時間。

客は誰もいない。何となくぼんやりと外を眺めていると、ふと、あることが頭に浮かんできた。

「ここのカフェ、店員の僕たちが貸切にしたらどうなるんだろう……」
「柊と、俺?」

 柊が独り言のように呟くと剛が反応した。

「はい、そうです」
「やってみようか?」
「いや、冗談ですよ……僕たちが客になったら営業できないじゃないですか!」

 手を両手で振り、否定する柊。

「私が料理作ったりします、か?」

 柊と剛は同時に目を見開いて、ぱっと優里を見た。少し悩んだ後、剛が言った。

「客もいないし、料理も上達してきたし、優里ちゃんに任せてみようか」

「がんばります!」と、優里は目を輝かせた。

「おふたりは、何を注文しますか?」
「俺、オムライスとアップルパイがいいな。あとはコーヒーも」
「……じゃあ、僕も剛さんと同じで」

 優里はニコリと笑い、「かしこまりました!」とハキハキ言うと、キッチンへ向かった。柊と剛も後をついて行く。

 優里は腕をまくり、冷蔵庫から卵と玉ねぎなどを取り出し、料理を作る準備を始めた。柊からコーヒーの淹れ方や接客のコツを学び、剛からも料理の技術を吸収していたため、凛としてキッチンに立っていた。

 キッチンで忙しそうに動く優里の姿を見ながら、柊は安心感を覚えた。幼い頃の弱々しい優里ではなく、今の彼女は力強くて、たくましい。

 剛と柊は目を合わせると、客としてテーブルに着き、純粋な気持ちでカフェの雰囲気を楽しむことにした。

 キッチンから漂ってくる、フライパンで玉ねぎを炒める音や香り。それらが店内に広がり、いつものカフェの温かい雰囲気が、さらに深まった。