*現在の時間
脳内は現実に戻る。今の中野さんと奈津美さんは穏やかに、終始笑顔で会話をしていた。毎回ふたりを見て少し羨ましく、理想の関係だなと思う。自分にはこんなにそばに寄り添えるような人はいない。
いつか現れるのだろうか――。
ふたりが帰ったあと、柊はテーブルを拭きながら、剛に尋ねてみた。
「そういえば、剛さんはいつもお客さんから貸切予約の問い合わせがあって、願いが叶うのか聞かれた時、絶対に否定をしませんよね。お客さんと出会った時点で何かが分かっていたりするんですか?」
「あぁ、ここで叶わないような願いがある人は、ここには来ないからね」
自信満々に答える剛。柊も剛の自信を見ていると、同じように思えてきた。
「あと、剛さんはシマエナガカフェ……いや、なんでこういう場を作ろうと思ったんですか?」
剛は手を止め、深くため息をついた。窓から見える外では、静かに雪が降り始めていた。
「実はね、大切な人を失った時に、その人に言えば良かったなって思うことがあってね……」
剛の声は低くなる。そして目を閉じ黙った後、静かに続きを語った。
「消えない後悔がきっかけで俺は、このシマエナガカフェを営業することに決めた」
「……剛さんの、後悔?」
「そう、そして考えた。俺みたいに、心に残って消えないような後悔をしている人たちの『変えられない過去』を再び見つめ直し、現実では残ったままだけど、せめて頭の中にあるものを理想に塗り替えながら再体験し、未練や後悔を少しでも癒せる場所にしたいと思ったんだ」
〝地元を離れてとにかく好き勝手自由に生きている人〟と、母から剛さんの情報を刷り込まれてきた。でも、剛さんが今ここを営業しているのは、見知らぬ誰かのためで――。
「だから『シマエナガカフェは、後悔している過去をやり直し、理想の時間に逢える場所』なんてフレーズにして、ここの噂も流したんだよ」
剛は遠くを見つめながら、温かい眼差しで語った。窓の外を何となく見ると太陽が現れ、静かに降る雪をダイヤモンドのように輝かせていた。
脳内は現実に戻る。今の中野さんと奈津美さんは穏やかに、終始笑顔で会話をしていた。毎回ふたりを見て少し羨ましく、理想の関係だなと思う。自分にはこんなにそばに寄り添えるような人はいない。
いつか現れるのだろうか――。
ふたりが帰ったあと、柊はテーブルを拭きながら、剛に尋ねてみた。
「そういえば、剛さんはいつもお客さんから貸切予約の問い合わせがあって、願いが叶うのか聞かれた時、絶対に否定をしませんよね。お客さんと出会った時点で何かが分かっていたりするんですか?」
「あぁ、ここで叶わないような願いがある人は、ここには来ないからね」
自信満々に答える剛。柊も剛の自信を見ていると、同じように思えてきた。
「あと、剛さんはシマエナガカフェ……いや、なんでこういう場を作ろうと思ったんですか?」
剛は手を止め、深くため息をついた。窓から見える外では、静かに雪が降り始めていた。
「実はね、大切な人を失った時に、その人に言えば良かったなって思うことがあってね……」
剛の声は低くなる。そして目を閉じ黙った後、静かに続きを語った。
「消えない後悔がきっかけで俺は、このシマエナガカフェを営業することに決めた」
「……剛さんの、後悔?」
「そう、そして考えた。俺みたいに、心に残って消えないような後悔をしている人たちの『変えられない過去』を再び見つめ直し、現実では残ったままだけど、せめて頭の中にあるものを理想に塗り替えながら再体験し、未練や後悔を少しでも癒せる場所にしたいと思ったんだ」
〝地元を離れてとにかく好き勝手自由に生きている人〟と、母から剛さんの情報を刷り込まれてきた。でも、剛さんが今ここを営業しているのは、見知らぬ誰かのためで――。
「だから『シマエナガカフェは、後悔している過去をやり直し、理想の時間に逢える場所』なんてフレーズにして、ここの噂も流したんだよ」
剛は遠くを見つめながら、温かい眼差しで語った。窓の外を何となく見ると太陽が現れ、静かに降る雪をダイヤモンドのように輝かせていた。



