幸せの道しるべ~理想の時間に逢えるカフェ

 閉店後、本当に柊は観ることができた。

柊がバイトを始めたその日から、いつもまかないとして、剛が柊の晩飯を用意していた。その日はハンバーグプレートがテーブルに並べられた。

柊は一人暮らしで、ひとりだと適当に食事を済ますタイプだから、並べられたハンバーグプレートは、貴重な栄養源である。しかも剛は料理がとても上手くて、作る料理はとても美味しくて。実はまかないを食べられる時間がいつも楽しみだった。

剛は電動スクリーンを下ろすと、店内の明かりを消した。映像が良く見える席に柊が座ると、高畑が指をパチンとならす。するとスクリーンに店内の映像が映った。

「なんか、剛さんが魔法をかけたから、ここに映像が現れた感じですね」
「だろ? まぁ、ただ俺は防犯カメラに残しておいた映像の再生ボタンを押しただけなんだけどね」

 今もだけど、カフェは常に特別な魔法がかかった場所みたいに、不思議な場所で。スクリーンに映っている映像は多分、防犯カメラではない。なぜなら、僕は本当に剛さんのことを魔法使いだと思っているから。多分、ここに来る子供たちも剛さんのことを魔法使いだと思っている。袖から手作りの花を出したり、コップの中に入れたコインを消したり、手品を子供に披露しているから。

 大きく映る映像の中では、中野がひとりできょろきょろと挙動不審な動きをしながらカフェの中に入ってきた。

「いらっしゃいませ」と剛が言うと、ふたりは目を合わせた。

 窓から見える外の景色は暗くて、店内はオレンジ色の明かりがついている。入口から一番近い席に中野は座った。他にも二組の客がいるから、これは貸切予約をした時間ではないのだろう。

「あの、コーヒーをお願いします」と、中野は注文を取りに来た剛に言う。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 ふたりの小さい声での会話も鮮明に聞こえ、声が僕の元まで綺麗に届いている。

 剛が中野の席から離れようとした時だった。「あのっ、すみません……」と、中野は少し切羽詰まりぎみの表情で剛を呼び止めた。